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秋田地方裁判所 平成6年(わ)26号 判決

本店所在地

秋田県大曲市小貫高畑字向大島甲九番地の二

法人の名称

大曲鉄筋工業有限会社

右代表者代表取締役

松井養一

鈴木秀夫

本籍・住居

秋田県大曲市小貫高畑字向大嶋甲五番地

会社役員

松井養一

昭和二五年一〇月一〇日生

本籍・住居

秋田県大曲市小貫高畑字向大嶋甲九番地

会社役員

鈴木秀夫

昭和二三年五月九日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官岩崎晃出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告大曲鉄筋工業有限会社を罰金一二〇〇万円に、被告人松井養一を懲役一年に、同鈴木秀夫を懲役一〇月にそれぞれ処する。

被告人松井養一、同鈴木秀夫に対し、この裁判確定の日から三年間それぞれその刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告大曲鉄筋工業有限会社(以下「被告会社」という。)は、肩書本店所在地に本店を置き、鉄骨、鉄筋工事の設計、監督及び施行請負等を目的とする資本金三〇〇万円の有限会社であり、被告人松井養一及び同鈴木秀夫(以下各被告人を「被告人松井」などと、両被告人を「被告人両名」という。)は、それぞれ被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人両名は共謀の上、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、架空外注費を計上する等の不正な方法により所得を秘匿した上、

第一  昭和六三年六月一日から平成元年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五一三七万八四五〇円であったにもかかわらず、同年七月二八日、秋田県大曲市栄町九番四号所在の所轄大曲税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五三八万八〇九〇円でこれに対する法人税額が一六〇万七一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成六年押第一〇号の符号一)を提出してそのまま納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額二〇六〇万九五〇〇円と右申告税額との差額一九〇〇万二四〇〇円を免れ

第二  平成元年六月一日から平成二年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二三七七万七五五〇円であったにもかかわらず、同年七月三一日、前記大曲税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が九一三万五五〇〇円でこれに対する法人税額が二七二万五二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の二)を提出してそのまま納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額八五六万五八〇〇円と右申告税額との差額五八四万〇六〇〇円を免れ

第三  平成二年六月一日から平成三年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七八六四万〇一八四円であったにもかかわらず、同年七月三一日、前記大曲税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一三二三万七八五五円でこれに対する法人税額が三九〇万六二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の三)を提出してそのまま納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額二八四三万二三〇〇円と右申告税額との差額二四五二万六一〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人松井、同鈴木の当公判廷における各供述

一  被告人松井(平成六年一月一四日付<二通>、同月一七日付、同年二月一〇日付、同月二五日付)及び同鈴木(同年二月一六日付、同年三月二五日付)の検察官に対する各供述調書

一  佐々木愛子、伊藤吉雄(一二丁のもの。)の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の各調査書(雑収入調査書を除く一〇通)

判示冒頭の事実について

一  秋田地方法務局大曲支局登記官作成の商業登記簿謄本

判示第一、第二、第三の事実について

一  検察事務官作成の平成六年三月三一日付報告書

判示第一の事実について

一  被告人松井の検察官に対する平成六年二月一日付供述調書

一  大蔵事務官作成の修正申告書謄本(平成元年度分)

一  押収してある法人税確定申告書(平成六年押第一〇号の一)

判示第二、第三の各事実について

一  伊藤吉雄の検察官に対する供述調書(一四丁のもの。)

判示第二の事実について

一  被告人松井の検察官に対する平成六年二月八日付供述調書(三七丁のもの。)

一  大蔵事務官作成の修正申告書謄本(平成二年度分)

一  押収してある法人税確定申告書(前同押号の二)

判示第三の事実について

一  被告人松井の検察官に対する平成六年二月八日付供述調書(七五丁のもの。)

一  大蔵事務官作成の雑収入調査書及び修正申告書謄本(平成三年度分)

一  押収してある法人税確定申告書(前同押号の三)

(法令の適用)

被告人両名の判示各行為は、いずれも刑法六〇条、法人税法一五九条一項に、被告会社の判示各行為はいずれも同法一五九条一項、一六四条一項に該当するので、被告人松井、同鈴木については各所定刑中各罪につき懲役刑をそれぞれ選択し、以上はそれぞれ刑法四五条前段の併合罪であるから、被告会社については同法四八条二項により各罪所定の罰金を合算した金額の範囲内で罰金一二〇〇万円に、被告人両名についてはいずれも同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人松井を懲役一年に、被告人鈴木を懲役一〇月にそれぞれ処し、被告人両名に対しては情状によりいずれも同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間それぞれの刑の執行を猶予することとする。

(量刑の事情)

本件は、被告会社の代表取締役である被告人両名が共謀して、架空の外注費を計上するなどの方法により三事業年度にわたり四九〇〇万円余りの法人税をほ脱した事案であるが、ほ脱率は約八六パーセントにものぼる上、被告会社の将来に備えた資金留保などは、国民の基本的義務である納税義務を前提として合法的努力よりなされるべきものであって、本件犯行の動機として酌むべきものとはいえないから、被告人両名及びその行為により税を免れた被告会社の刑事責任はいずれも重大と言わねばならない。

また、主導的役割を果たした被告人松井はもちろん、代表取締役として同人と対等の立場にありながら、本件犯行を制止するどころかかえってそれに加担した被告人鈴木の責任も軽視しえない。

しかしながら、被告人両名は本件発覚後は犯行を全て認め、当公判廷において今後二度と犯罪を犯さないことを約し、被告会社に対する加算税・重加算税・延滞税については全て支払を完了しているとともに、新たに被告会社に税理士を迎えて経理体制の改善に務めているなど本件犯行を反省しており再犯のおそれは小さいと認められる上、本件犯行により被告会社の信用を失い仕事量が減るなど既に社会的経済的に制裁を受けていること、被告人両名は被告会社の経営上欠くべからざる立場にいることなどを考慮し、それぞれの刑事責任を明らかにしたうえで被告人両名の刑の執行については相当期間猶予するのが相当と判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 古田浩)

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